
ナフサ不足でインクが足りない!|2026年に印刷インク危機が起きた理由と“溶剤に頼らない”代替策をわかりやすく解説
- 環境配慮・印刷
2026年の春、スーパーマーケットに並ぶお菓子の袋から色が消えはじめました。大手菓子メーカーがポテトチップスなどのパッケージを白黒2色に切り替えると発表し、大きな話題に。背景にあったのが「ナフサ不足」を発端とする印刷インクの供給不安です。
本記事では、ナフサとインクの関係、なぜ2026年にインク不足が起きたのかを整理し、有機溶剤に頼らない印刷方式「水性フレキソ印刷+ノンソルベントラミネート」という代替策を、環境対応とBCP(事業継続計画)の両面からご紹介します。
目次
2026年、なぜ「インク不足」が起きたのか
スーパーマーケットで起きた「パッケージの白黒化」
カラフルだったお菓子の袋がモノクロになる─2026年春、大手菓子メーカーや大手食品メーカーが、印刷インクの調達不安を理由にパッケージの色数を減らしたり、インク使用量を少なくするデザインに変更したりするなどの対応を相次いで発表しました。
普段意識しない商品パッケージの鮮やかな色も、安定したインクの供給に支えられていたことがあらためて浮き彫りになりました。
ナフサとは何か|インク・塗料の出発点
この一連の問題の根本にあるのが「ナフサ」です。原油を精製する過程で得られる石油化学製品の基礎原料で「粗製ガソリン」とも呼ばれ、石油化学工場でエチレンやプロピレンなどに分解されます。プラスチック・塗料・接着剤・印刷インクの溶剤・外壁塗装のシンナーまで、出発点をたどればすべてナフサに行き着く─現代のものづくりを足もとで支える「見えない原料」なのです。
ナフサ不足が印刷インクを直撃する仕組み

ナフサ→有機溶剤→油性インキという連鎖
印刷インクには顔料を紙やフィルムに定着させる「有機溶剤」が使われ、日本主流の油性インキはこれを多く含みます。有機溶剤の多くはナフサ由来のベンゼンやトルエン系の化学品から作られるため、ナフサの供給が滞ると溶剤生産が減り、インクが品薄になって価格が高騰する─これが2026年に表面化したインク不足の連鎖です。
中東情勢とホルムズ海峡|供給不安の背景
ナフサ不足の引き金となったのは、中東情勢の緊迫化でした。日本はナフサの多くを輸入に頼っており、原油やナフサの主要な輸送ルートであるホルムズ海峡の通航に不安が生じれば、たちまち供給は逼迫します。2026年はこの中東情勢を背景に、石油化学製品全体へと影響が広がりました。
加えて見落とせないのが市場心理による影響です。「今後さらに不足するかもしれない」という不安から、在庫確保の動きが広がり、サプライチェーンの目詰まりが発生しました。その結果、実際の流通量がさらに減少し、供給不足に拍車がかかっています。物理的な不足と心理的な不足が同時に進むため、紛争や緊迫した国際情勢が落ち着いたとしても、価格はすぐには元に戻りにくい状況です。
グラビア印刷とラミネート|日本の食品包装が抱える“溶剤依存”
日本の食品パッケージで長く主流のグラビア印刷は、油性インキ=有機溶剤を多く使う印刷方式です。フィルムを貼り合わせる「ラミネート加工」でも、日本主流の溶剤ドライラミネートは接着剤の希釈に酢酸エチルを大量に使います。日本の食品パッケージは「印刷」でも「ラミネート」でも有機溶剤に深く依存した構造で、ナフサ不足の影響を受けやすい弱点を抱えています。
供給リスクの連鎖|ナフサ不足から原反値上げまで
ナフサの供給不安は、印刷インクだけの問題にはとどまりません。2026年に表面化した供給リスクの連鎖を以下のようにまとめました。
- 中東情勢の緊迫 ─ ホルムズ海峡の封鎖リスク
- ナフサの輸入量が減少 ─ 国内の石油化学プラント統廃合の動きも重なる
- 酢酸エチルなど石化原料がひっ迫 ─ 溶剤系の調達が不安定に
- 接着剤・グラビアインキが品薄に ─ 溶剤ドライラミ・グラビア印刷の生産に支障
- フィルム原反の追加値上げ ─ コスト面の負担も増大
グラビア印刷と溶剤ドライラミネートは、石油由来の有機溶剤という「一本の細い糸」でつながっています。糸が切れれば影響はパッケージ全体に波及。価格は実需だけでなく市場心理にも左右されるため、「グラビアインキ一択」のままでは変動を構造的に受け止めるしかありません。
BCP(事業継続計画)の観点では、印刷方式に複数の選択肢を持っておくことが、有事の本当の備えになります。
インク不足にどう備えるか|「溶剤に頼らない印刷」という選択肢
今回のような供給不安は短期間で解消するとは限らず、上がった価格もそう簡単には戻らないことがあります。だからこそ重要なのが「そもそも有機溶剤への依存を減らしておく」という発想です。その有力な選択肢が、水性フレキソ印刷とノンソルベントラミネートです。
水性フレキソ印刷|インキの主成分は「水と顔料」
水性フレキソ印刷は、グラビア印刷(凹版)に代わる凸版方式の印刷です。最大の特徴は、インキの主成分が「水と顔料」であること。油性インキのように有機溶剤を大量に使うことがなく、含まれる溶剤はごく微量のアルコール程度です。
参考までに、欧州では環境規制やVOC削減の流れを背景に、水性フレキソ印刷化が進んでおり、グラビア中心の日本とは事情が大きく異なります。世界的な石油由来溶剤の供給不安が広がっても、欧州の生産現場では日本国内ほどの混乱は起きていません。日本でとくに「白黒パッケージ化」が大きく報じられたのは、グラビア依存度の高さの裏返しです。
グラビア印刷と水性フレキソ印刷は何が違うのか
両者の違いは「版」の仕組みです。グラビア印刷は金属ロールの凹版にインキを溜めて転写しますが、水性フレキソは弾力のある樹脂版を使う凸版方式。インキ供給も「アニロックスロール」で量を精密に制御し循環使用するため、大量の有機溶剤で希釈する必要がありません。
「フレキソ印刷は細かい表現が苦手」というイメージはすでに変わってきており、技術進歩によりグラビアに迫る高精細な印刷が可能です。色替え時の洗浄に手間はかかりますが、供給リスクと環境負荷を同時に下げられる利点はそれを上回ります。
ノンソルベントラミネート|接着工程からも溶剤をなくす
水性フレキソ印刷とセットで採用したいのが、ノンソルベントラミネート(無溶剤ラミネート)です。日本主流の溶剤ドライラミは酢酸エチルを大量に使いますが、ノンソルは溶剤を使わない接着剤でフィルムを貼り合わせるため、残留溶剤による臭いの心配もありません。印刷とラミネートの両方を「溶剤レス」にすることで、パッケージ製造から有機溶剤を大きく減らせます。
水性フレキソ印刷+ノンソルベントラミネートが“代替策”になる理由
有機溶剤の使用量を大幅に削減できる
水性フレキソ印刷とノンソルベントラミネートを組み合わせる最大の意義は、ナフサ不足の影響を最も強く受ける「有機溶剤」の使用量を大幅に減らせること。油性グラビア印刷との差は、当社の試算で数字にはっきりと表れます。
| 比較項目 | 油性グラビア印刷(凹版) | 水性フレキソ印刷(凸版) |
|---|---|---|
| インキの主成分 | 有機溶剤+顔料 | 水+顔料(溶剤はごく微量) |
| インキ塗布量 | 約6.0 g/㎡ | 約2.5 g/㎡(約6割減) |
| VOC発生量(10万m印刷時) | 約480 kg | 約5 kg |
| 工場でのVOC処理 | 燃焼処理しCO₂として排出 | 「水」を排水処理(燃焼不要) |
※ 数値は特定の条件(10万m印刷時など)にもとづく試算例です。実際の値は製品の仕様・数量により異なります。
油性グラビアの工場ではVOCを燃焼処理しCO₂として工場外へ排出しますが、水性フレキソで主に扱うのは「水」。燃やすべきVOCがそもそも少なく、排水処理で済みます。インキ塗布量も油性グラビアの約6割と原料そのものを減らせるため、供給リスクの大きい有機溶剤への依存を構造的に小さくできるのです。
切り替えのハードルが低い(印刷方式の変更のみ)
水性フレキソ印刷への切り替えはフィルム素材そのものの変更を必要としません。印刷の手法を変えるだけのため、内容物の品質検証ハードルが比較的低く、既存商品からの移行を検討しやすいのが利点です。
CO₂削減という“副次的なメリット”
有機溶剤を減らすことはVOCやCO₂排出量の削減にも直結します。セキ株式会社試算では、ある冷凍食品包材で油性グラビア+溶剤ドライラミの場合に約3,612kg発生していたCO₂が、水性フレキソ+ノンソルラミではほぼゼロに。
セキ株式会社は独自のCO₂試算ツールを保有し、現行パッケージから3パターン(油性グラビア/水性グラビア+ノンソルラミ/水性フレキソ+ノンソルラミ)でVOC量・CO₂排出量を比較可能です。ある製品では年間VOCが約517kg→約4kg(約99%減)まで下がりました。
※ 数値はいずれも特定の製品・条件にもとづく試算例です。実際の削減効果は製品の仕様により異なります。
日本は2030年度に温室効果ガスを2013年度比46%削減する目標を掲げており、製品パッケージの環境対応は「やったほうがよいこと」から「求められること」へ変わりつつあります。
水性フレキソ印刷の仕組みや特長、さらにCO₂削減効果については、こちらの記事でも詳しく紹介していますので、あわせてご覧ください。
環境対応とBCPの両価値|一つの選択で、二つの価値
水性フレキソ印刷+ノンソルベントラミネートのもうひとつの大きな特徴は、長期の環境対応(CO₂削減)と、有事のBCP(事業継続計画)への備えを、同じひとつの選択で同時にカバーできることです。
溶剤に頼らない構造そのものが、中東情勢の悪化や国内プラントの減産といった外部要因の影響を受けにくくし、サプライチェーンの調達リスク分散にもつながります。脱炭素を進めることが、結果としてBCP強化にもなる─これが当社の「環境対応とBCPの両価値」という考え方です。
印刷工程でも広がる環境配慮の動きについて、カーボンニュートラルやScope3の観点を交えながら、こちらの記事で詳しくご紹介しています。あわせてご覧ください。

SEKI担当営業からのご提案
ナフサ不足のニュースが流れて以降、お客さまから「自社のパッケージも止まるリスクはないか」「油性グラビア印刷以外に手はないか」というご相談が、これまでより明らかに増えました。
私たちは以前から、油性グラビア印刷からの切り替え先として水性フレキソ印刷+ノンソルベントラミネートをご提案してきました。当時は「環境対応」の文脈で語ることが多かった商材ですが、振り返ってみると、それがそのまま「有事のBCP対策」にもなっていた、というのが正直なところです。
当社が試算したある冷凍食品包材の例では、油性グラビア+溶剤ドライラミで発生していたCO₂が、水性フレキソ+ノンソルラミに切り替えたことで約50%削減できました。このように「ナフサ由来の有機溶剤を一気に減らせる」ことが、環境とBCPを同時に進める手段になると実感する場面が、ナフサ不足を契機に増えました。
もちろん「水性フレキソ印刷+ノンソルベントラミネートに切り替えれば全部解決」という単純な話ではありません。商品ごとに最適な印刷方式や基材は変わります。だからこそ、現行のパッケージをお預かりして、CO₂・コスト・供給リスクを並べてご提案するようにしています。
井村屋さまの「袋入 水ようかん」をはじめ、食品メーカーさまでの実採用事例も着実に増えています。
「いまの包材調達ルートだけで本当に大丈夫だろうか」─そう感じられたら、ぜひ一度お声がけください。一緒に最適なかたちを考えさせていただきます。
よくある質問(FAQ)
Q. 水性フレキソ印刷なら、ナフサ不足の影響をまったく受けませんか?
A. 完全に無縁ではありません。インキの顔料や樹脂には石油由来の原料も含まれます。
ただし、2026年のナフサショックでとくに調達が不安定になったのは「有機溶剤(シンナーや酢酸エチルなど)」でした。水性フレキソ印刷+ノンソルベントラミネートはこの溶剤使用量を大幅に減らせるため、供給リスクの大きい部分への依存をあらかじめ下げる、有効な備えになります。
Q. 水性フレキソ印刷は、グラビア印刷より品質が劣りませんか?
A. かつての「フレキソは細かい表現が苦手」という認識も、技術進歩によって変わってきています。
技術の進歩で高精細な印刷が可能になり、衛生管理の厳しい食品パッケージの分野でも採用が広がっています。
Q. コストは上がってしまいませんか?
A. 環境対応=コスト増、とは限りません。
水性フレキソ印刷は広幅生産が可能で生産効率が高いため、価格上昇を抑えられるケースや、商品によってはコストダウンになるケースもあります。費用は仕様をもとに個別にお見積りいたします。
Q. BCP(事業継続計画)の観点で見ても、効果はありますか?
A. はい。
水性フレキソ印刷+ノンソルベントラミネートは、グラビア印刷+溶剤ドライラミに比べて石油由来の有機溶剤への依存度が構造的に低い包装方式です。中東情勢の悪化や国内プラントの統廃合といった外部要因の影響を受けにくく、サプライチェーン上の調達リスクを分散できます。BCPの観点からの見直しは有意義な選択といえます。
まとめ|「溶剤に頼らないパッケージ」への切り替えを検討する
2026年に表面化したインク不足は、ナフサという一つの原料に依存することのリスクをはっきりと示しました。スーパーマーケットに並んだ白黒のパッケージは、その連鎖の「見える形」にすぎません。
ナフサ不足や中東情勢といった外部環境を一企業がコントロールすることはできませんが、「有機溶剤への依存をあらかじめ減らしておく」という備えは可能です。水性フレキソ印刷とノンソルベントラミネートは、有事の供給リスクへのBCP対策と、長期の脱炭素という未来への投資を、ひとつの選択で同時に実現できます。
セキ株式会社では、水性フレキソ印刷・ノンソルベントラミネートによる環境配慮型パッケージを、印刷からラミネート加工まで社内で一貫してご提供しています。井村屋さまの「袋入 水ようかん」をはじめ食品パッケージでの採用実績もございます。現行パッケージのCO₂試算から、お気軽にご相談ください。












